新たなるバックラッシュ
我々が受けているのは、端的に言えば《新たなるバックラッシュ》である。この原稿を書いている現在でもデマの横溢による差別の増幅が扇動されている。埼玉県知事自身が否定した「埼玉県でオールジェンダーのトイレ・更衣室を強要され従業員が退職した」との参政党関係者のデマは20年前の≪バックラッシュ≫のリフレインである。我々は20年間このバックラッシュ下にあり、今まさにより強いバックラッシュが我々を襲っている。今回は論考というより、まず史的前提を共有することから始めたいと思う。また「」引用部は特に断り書きがなければ荻上チキ「ジェンダーフリー&バックラッシュ騒動まとめ」によるものである。
「バックラッシュ」とは
「バックラッシュ」は政治的な「揺り戻し現象」一般を指して用いる事が多い」
とあり、日本フェミニズムにおけるバックラッシュは1990年代後半から2000年代に行われたものを指す。ここに現在まで続く保守反動勢力の妄執的病理がある。
七生養護学校事件
バックラッシュが最高潮を迎えたとき起こったこの事件は知的障害がある子どもに対する性教育の保障という観点から、人形を用いてわかりやすく性行為を示すというものである。「(筆者注:2003年7月4日)東京都立七生養護学校に古賀俊昭、田代ひろし、土屋たかゆきの各都議会議員、(…)区議達と、東京都教委、産経新聞の記者達計17名が「調査」に入る。渡部眞、「具体的でないと分からないというなら、セックスもやらせるのか。体験を積ませて学ばせるやり方は共産主義の考え方だ」と発言。翌5日、産経新聞が「まるでアダルトショップのよう」と言及。9日には都教育委員会が「事情聴取」を行い、性教育についての教材145点を押収」
クズとしか言いようがない自民党議員団の発言は全くの不適当であり誹謗中傷行為であった。元自民党都議古賀俊昭は裁判で敗訴しながらも2020年に死ぬまで同様の言説をするという妄執とでもいうべき異常さをみせた。この妄執が彼ら保守反動勢力を支配するものである。
繰り返されるバックラッシュ
保守反動勢力は今も心ある人間の抵抗が続く中で、依然として邪知暴虐・非道の行いをなし続けている。その典型的な方法は変わりがない。
“この『Sapio』の記事(筆者注:八木秀次2005))は象徴的だ。いくつもの「過激な」例を列挙した後(…)「ジェンダーフリー教育を、断じて、このまま野放しにするわけにはいかない」と括られる。(…)性教育の方法論や、縮減すべきジェンダーバイアス、残すべきジェンダーバイアスの価値判断に関する議論ではなく、誇張や修辞によって批判対象の「過激さ」を誇張することで批判言説の推進力を高めつつ、一点突破的に対象全体を否定するという言説パターンだ。”
ここで示されているようにデマや誇張による誹謗中傷の技法はこの時点で確立していたものである。
また八木秀次は現在も自民党において、一応の専門は憲法学でありながら、LGBTについての有力なアドバイザーである。このような滅茶苦茶な差別的論理の学者を20年に渡ってのさばらせ、現在においても同様なデマや誹謗中傷をまき散らし続けている。
既存の左派勢力の反動
・ギリシャ共産党
ギリシャ共産党(KKE)は同性パートナーシップに反対票を投じて問題視されたことがある。「On The Cohabitation Agreemen」(『Kommouistiki Epitheorisi』2016)がそれである。「KKE は性的指向は同棲と同様にプライベートな問題であると考えています。性的指向、性的関係、性的満足は社会的権利を生み出しません」これらは言わば従前新左翼の中で言われてきた労働者の中心である十全な、ヘテロセクシャルな≪男性≫労働者を運動の中心に据えよという「マイノリティ(差別)主義」がいまだにユーロコミュニズムにおいても引きずっている政党がいるということである。これは本邦でも同様である。
・中核派
この論理の影響下にあるのは中核派である。
同性婚やパートナーシップに賛同している時点で段階・漸進的解決に同意しているのであり、それなのにその基礎となる杉並区性の多様性条例に同意しないというのは論理的矛盾である。端的に言えば「形を変えたマイノリティ主義」である
・女性スペースを守る会
女性スペースを守る会は森田成也(第四インターナショナル)のポルノ・買春問題研究会(日共党員の一部との関わりも多い)と密接な関わりを持つ団体で様々なスラップ訴訟による表現弾圧と、自民党との院内集会を行い組織的に議論を反動させ、共産党との関わりが深かった某女性作家を転向させ、まきこみながらトランスジェンダーに対する誹謗中傷をまき散らしている組織である。
・新社会党
新社会党の転向は決定的ではないものの、前述の森田成也によるトランスフォビックな記事を掲載した(「週刊新社会」2023.2.15)。これはギリシャ共産党や中核派同様、「マイノリティ主義」的な価値観が党内に残滓しているからだ。早急な党内変革を願う。
バックラッシュに抵抗するためのクィア運動・思想について述べて行きたいが、字数が尽きたのでまた次回に述べたいと思う。